災害が起きたとき、避難所での生活は誰にとっても大変です。
でも、知的障害のある方にとっては、想像以上に困難な状況になることをご存知でしょうか。
この記事では、介護福祉士として障害者支援に関わってきた経験から、知的障害者が避難所生活で直面する困りごとと、今からできる備えについてまとめました。
支援者の方はもちろん、ご家族や地域で災害対策を考えている方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
令和8年熊本地震発生|知的障害者支援の現場から伝えたいこと
2026年6月に発生した令和8年熊本地震では、多くの方が避難所生活を余儀なくされました。
その中には、知的障害のある方やそのご家族も含まれています。
避難所では、
健常者を想定した運営が基本
になっているため、知的障害のある方への配慮が行き届かないケースが少なくありません。
例えば、大声を出してしまったり、じっとしていられなかったりする行動が、周囲から誤解を受けることもあります。
しかし、これらの行動には必ず理由があります。
環境の変化への不安や、言葉で気持ちを伝えられないもどかしさが背景にあるのです。
私自身、介護福祉士として長年、知的障害のある方の支援に関わってきました。
日常生活でも、ちょっとした環境の変化で不安になる方を何人も見てきましたし、だからこそ、災害時の備えの大切さを痛感しています。
この記事が、少しでも多くの方の参考になれば嬉しいです。
知的障害者の避難所生活で困ること7選
ここからは、知的障害のある方が避難所生活で直面する具体的な困りごとを7つ、ご紹介します。
一つひとつは小さなことに見えるかもしれませんが、当事者にとっては大きなストレスになります。

①環境変化でパニックに|いつもと違う場所・人・音への不安
知的障害のある方の多くは、いつもの環境に安心感を持っています。
自宅、いつもの部屋、見慣れた景色。
これらが突然変わると、強い不安やパニックを引き起こすことがあります。
避難所は、見知らぬ場所で、知らない人がたくさんいて、ざわざわした音が絶えず聞こえてきます。
この環境自体が、知的障害のある方にとっては大きなストレス要因なんですよね。
さらに、「なぜここにいるのか」「いつ帰れるのか」といった状況の理解が難しい場合もあります。
そうなると、不安が増幅し、泣き叫んだり暴れたりする行動につながることも。
これは決して「わがまま」ではなく、不安を表現する手段なのです。
②言葉で伝えられない|コミュニケーションの壁
「トイレに行きたい」「お腹が痛い」「水が欲しい」——健常者なら言葉で伝えられることも、知的障害のある方には難しい場合があります。
特に、避難所のように慣れない環境では、
言葉がさらに出にくくなることも多いんです。
そうなると、身体を叩いたり、大声を出したり、物を投げたりして、何とか気持ちを伝えようとします。
でも、その行動が周囲には「問題行動」と映ってしまう。
これが、避難所でのコミュニケーションの壁です。
支援者や家族が側にいれば、「あ、今トイレかな」と気づけるのですが、混乱した状況ではそれも難しくなります。
③ルーティンの崩壊|日常の流れが途絶える混乱
知的障害のある方は、毎日の決まった流れに安心感を持っていることが多いです。
朝起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べて、テレビを見て……。
この「いつもの流れ」が、災害で一気に崩壊します。
避難所では、食事の時間も不規則ですし、寝る場所も違います。
お風呂にも入れない。テレビも見られない。そんな状況が続くと、混乱が深まっていくんですよね。
私が支援していた方の中にも、「毎朝7時にラジオ体操をする」という習慣を大切にしている方がいました。
もしその方が避難所生活になったら……と考えると、本当に心配になります。
ルーティンの崩壊は、想像以上に心のバランスを崩すんです。
④感覚過敏への配慮不足|音・光・におい・人混みがつらい
知的障害のある方の中には、
感覚過敏を持つ方も少なくありません。
大きな音が苦手、明るすぎる光がつらい、特定のにおいでパニックになる、人混みが耐えられない——こうした感覚の特性は、個人差が大きいです。
避難所は、まさに感覚過敏の方にとって過酷な環境です。
子どもの泣き声、大人の話し声、足音、ドアの開閉音……。
音の刺激が絶え間なく続きます。
さらに、体育館の照明は明るすぎますし、人がぎゅうぎゅう詰めです。
こうした環境では、感覚過敏のある方は常に緊張状態になり、体調を崩すこともあります。
でも、「音が苦手です」「人混みがつらいです」と言葉で伝えられなければ、誰も気づいてくれません。
⑤周囲の理解不足|行動が誤解されたり孤立したり
避難所では、多くの人が疲れ、イライラし、余裕がない状態です。
そんな中で、知的障害のある方の行動が「迷惑」と受け取られることがあります。
例えば、じっとしていられずに歩き回る、大きな声を出す、突然笑い出す——こうした行動の背景には、不安やストレスがあるのですが、周囲には理解されにくいんですよね。
そして、心ない言葉を浴びせられたり、「あの人たちは別の場所に行ってほしい」と言われたりすることもあります。
これは、ご家族にとっても本当につらいことです。
私は、地道な積み重ねと誠実さが信頼を生むと信じています。
でも、災害時のような緊急事態では、そんな余裕がないのが現実。
だからこそ、
事前の備えと周知が大切なんです。
⑥服薬管理の困難|薬の種類や時間がわからなくなる
知的障害のある方の中には、てんかんや精神的な症状のために
毎日薬を飲んでいる方もいます。

この薬の管理が、避難所ではとても難しくなります。
まず、薬を持ち出せなかった場合。
どこの病院でどんな薬をもらっていたのか、本人は説明できないことが多いです。
さらに、避難所では薬の時間を知らせてくれる人がいないため、飲み忘れが起きやすくなります。
薬の飲み忘れは、症状の悪化に直結します。
てんかん発作が起きたり、精神的に不安定になったり……。
でも、周囲はそのことを知らないので、「急に様子がおかしくなった」と驚くだけです。
⑦支援者不在の不安|いつもの人がいないストレス
知的障害のある方にとって、
いつも側にいてくれる支援者や家族は、何よりの安心材料です。
その人がいるだけで、落ち着ける。その人の声を聞くだけで、安心できる。
でも、災害時には、家族が怪我をしていたり、別々に避難していたり、支援者が来られなかったりすることもあります。
そうなると、本人は「いつもの人がいない」という不安で、どんどん混乱していきます。
私自身、利用者さんから「あなたがいないと不安」と言われたことが何度もあります。
それは信頼の証でもあるのですが、同時に、その人が私以外の場所で過ごすことの難しさも感じます。
災害時には、この「いつもの人」がいないことが、最も大きなストレスになるんです。
災害前に備えておきたいこと|知的障害者支援の視点から
ここまで読んで、「じゃあ、どうすればいいの?」と思った方も多いはず。ここからは、災害が起きる前にできる具体的な備えをご紹介します。
持ち出し袋に入れるべきもの(視覚支援グッズ・お薬情報)
避難時の持ち出し袋に、
視覚支援グッズを入れておくことをおすすめします。
例えば、「トイレ」「ごはん」「ねる」などのイラストカードがあれば、言葉が出なくてもコミュニケーションが取りやすくなります。

また、お薬情報も必須です。お薬手帳のコピーや、薬の名前・量・飲む時間を書いたメモを、ジップロックに入れて持ち出し袋に入れておきましょう。
これがあるだけで、避難所での服薬管理がぐっと楽になります。
さらに、本人の写真と名前、緊急連絡先を書いたカードもあると安心です。
もし家族とはぐれても、周囲の人が助けてくれる可能性が高まります。
本人の特性を伝えるカードやメモを用意
「支援が必要です」カードを作っておくことも有効です。
例えば、こんな内容を書いておきます。
・名前、年齢、住所
・知的障害があること
・パニックになったときの対処法(例:静かな場所に連れて行く、深呼吸を促す)
・苦手なこと(例:大きな音、人混み)
・安心できること(例:ぬいぐるみを持たせる、歌を歌う)
・緊急連絡先
このカードを首からぶら下げるか、持ち出し袋に入れておけば、避難所で周囲の人に理解してもらいやすくなります。
文字だけでなく、イラストを添えるとさらに分かりやすいですね。
安心できるグッズ(お気に入りのもの)を準備
知的障害のある方にとって、お気に入りのグッズは心の支えです。
ぬいぐるみ、タオル、おもちゃ、音楽プレーヤー……。
何でもいいので、本人が安心できるものを持ち出し袋に入れておきましょう。
ある利用者さんは、お気に入りのタオルを肌身離さず持っていました。
それがあるだけで、初めての場所でも落ち着けるんです。
災害時にも、こうしたアイテムがあるかないかで、本人のストレスは大きく変わります。
避難所で配慮してほしいこと|支援者・周囲の方へ
もし避難所に知的障害のある方がいたら、どんな配慮ができるでしょうか。
ここでは、支援者や周囲の方にお願いしたいことをまとめます。
知的障害者の行動の理由を理解してほしい
まず、
行動には必ず理由があるということを知ってほしいです。
大声を出すのは不安だから。歩き回るのは落ち着かないから。泣くのは気持ちを伝えられないから。
「困った行動」と見るのではなく、「何に困っているのかな?」と考えてみてください。
その視点があるだけで、対応が変わります。
視覚的な情報提供や声かけのコツ
言葉だけの説明は、知的障害のある方には伝わりにくいことがあります。
そんなときは、視覚的な情報が役立ちます。
例えば、「ごはんの時間は12時です」と言うだけでなく、時計のイラストと食事のイラストを見せる。
「トイレはあっちです」と指を差すだけでなく、トイレのマークを見せる。

こうした工夫で、理解がぐっと深まります。
また、声かけのときは、
ゆっくり・短く・分かりやすくが基本です。
「お水飲む?」「トイレ行く?」といった簡単な言葉で、優しく声をかけてあげてください。
福祉避難所や静かなスペースの確保
一般の避難所が難しい場合は、福祉避難所への移動を検討してください。
福祉避難所は、高齢者や障害者など、特別な配慮が必要な方のための避難所です。
また、一般避難所でも、体育館の隅や別室など、静かなスペースを確保してもらえると助かります。
感覚過敏のある方にとって、少しでも刺激の少ない場所があるだけで、ストレスが軽減されます。
もし避難所生活になったら?利用できる支援制度
避難所生活が始まった後も、利用できる支援制度があります。
知っておくだけで、いざというときに役立ちます。
福祉避難所への移動を相談できる窓口
福祉避難所は、災害発生後に開設されます。
まずは、避難所の運営本部や市町村の福祉課に相談してみてください。
「知的障害があって、一般避難所では難しい」と伝えれば、福祉避難所への移動を調整してもらえる可能性があります。
災害時のヘルパー派遣や相談支援
災害時でも、ヘルパーの派遣や相談支援を受けられる制度があります。
普段利用している相談支援事業所や、市町村の障害福祉課に連絡してみてください。
また、災害ボランティアの中には、障害者支援の経験がある方もいます。
遠慮せずに、「支援が必要です」と声を上げることが大切です。
知的障害者支援の介護福祉士として|日頃からできる備えの心構え
私は介護福祉士として、日々、知的障害のある方と向き合ってきました。
その中で感じるのは、
日常の備えが、災害時の安心につながるということです。
例えば、普段から本人の特性を周囲に伝えておくこと。地域の防災訓練に参加して、顔見知りを増やしておくこと。
避難経路を一緒に歩いて確認しておくこと。
こうした小さな積み重ねが、いざというときに力になります。
私自身、石橋を叩いて渡るタイプなので、「まだ災害は起きていないから」と油断せず、今できることをコツコツやっておきたいと思っています。
感謝の気持ちを忘れず、任されたことに一生懸命向き合う——その姿勢が、利用者さんやご家族の安心にもつながるはずです。
まとめ:知的障害者も安心できる災害への備えを今日から
知的障害のある方が避難所生活で困ることについて、この記事で分かったことをまとめます。
【要点まとめ】
・環境変化でパニックになりやすい
・言葉で伝えられないため、コミュニケーションが難しい
・ルーティンの崩壊が大きなストレスになる
・感覚過敏への配慮が不足しがち
・周囲の理解不足で孤立することもある
・服薬管理が困難になる
・いつもの支援者がいない不安が大きい
災害はいつ起きるか分かりません。
でも、今日から備えることはできます。
視覚支援グッズや特性カードを用意して、家族や支援者と情報を共有して、地域とつながっておく——この一歩が、いざというときの安心につながります。
知的障害のある方も、そのご家族も、支援者も、みんなが安心できる災害への備えを、今日から始めてみませんか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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