「そろそろ免許、返したほうがいいんじゃない?」
そんな言葉を、地域や友人、そして介護の現場で何度も耳にしてきました。
でも、車はただの移動手段ではありません。
買い物、通院、そして“自分らしく生きる”ための大切な道具です。
最近知った『自動車運転外来』という取り組みは、そんな高齢者の“まだできる力”に光を当ててくれるものでした。
この記事では、介護福祉士としての視点から、自動車運転外来のしくみと可能性についてご紹介します。
運転を「やめる」だけじゃない選択肢
高齢者の運転と聞くと、「そろそろ危ないのでは」「免許を返納した方がいいのでは」といった声が先に立つことが多いように感じます。
確かに、加齢に伴う身体機能や認知機能の変化は無視できませんし、万が一の事故を心配する家族の気持ちもよくわかります。
けれど、介護の現場で日々ご本人と向き合っていると、運転が単なる移動手段ではないことを痛感します。
車は、買い物や通院といった日常生活を支える「足」であると同時に、「自分の力でどこかへ行ける」という自由と誇りの象徴でもあるのです。
「まだ運転を続けたい」「病院に行きたい」「畑に行くのが楽しみなんだ」
そんな言葉を、私はこれまで何度も耳にしてきました。
運転をやめることが、その人の生活の質や生きがいに大きく影響することもあるのです。
だからこそ、「やめさせる」だけではない支援のあり方が必要だと、強く感じています。

引用元:ぱくたそ
自動車運転外来とは?
簡単に言うと、高齢者の運転能力を科学的に評価する専門外来の事なんです。
現在全国で3か所の地当社運転外来が開設されています
開設済みの運転外来(眼科系中心)
♡西葛西・井上眼科病院(東京都)→ 国内初の眼科運転外来(2019年開設)
♡神戸市立神戸アイセンター病院(兵庫県)
♡新潟大学医歯学総合病院(新潟県)
開設予定(2025年4月)
♡名古屋市立大学医学部附属東部医療センター(愛知県)
→ 東海地方では初、全国で4か所目
導入された取り組み
自動車運転外来は、高齢者や疾患を抱える方が「安全に運転を続けられるかどうか」を専門的に評価する医療機関の取り組みです。
全国の一部医療機関で導入が進んでいます。
この外来の特徴は、「運転をやめさせるため」ではなく、「運転を続けるために何ができるか」を見極める点にあります。
高齢者の“できる力”に光を当てる、前向きな支援の場なのです。
評価項目
認知・身体・注意力を総合的にチェックし評価していくようです!
これらの評価は、医師や作業療法士によって丁寧に行われ、運転に必要な能力を多角的にチェックします。
認知機能(記憶力、判断力、注意の持続など)
運動機能(反応速度、手足の動き、バランス感覚など)
注意力・空間認識(周囲の状況を把握する力)
■認知機能(記憶力、判断力、注意の持続など)
運転中は、信号や標識を見て瞬時に判断したり、前後の車の動きを記憶して対応したりと、複数の認知機能が同時に働いています。
特に高齢になると、注意が散漫になったり、判断が遅れることがあるため、こうした機能のチェックは非常に重要です。
介護の現場でも、「最近、道を間違えることが増えた」「信号の色を見落とした」といった声を聞くことがあり、運転における認知力の変化は見逃せません。
■ 運動機能(反応速度、手足の動き、バランス感覚など)
ハンドル操作やブレーキの踏みかえなど、運転には瞬時の身体の反応が求められます。
たとえば、歩行者が急に飛び出してきたときに、すぐにブレーキを踏めるかどうかは命に関わる問題です。
加齢によって筋力や柔軟性が低下すると、こうした動作が遅れがちになります。
外来では、こうした運動機能も細かく評価されるため、「まだ運転できるかどうか」を客観的に判断する材料になります。
■ 注意力・空間認識(周囲の状況を把握する力)
運転中は、車線の位置、歩行者の動き、信号の変化など、周囲の情報を常に把握しながら走行する必要があります。
空間認識力が低下すると、車幅感覚を誤って接触事故を起こしたり、右左折時に歩行者を見落とす危険性が高まります。
介護職としても、利用者さんが「車庫入れが苦手になった」「狭い道で不安を感じる」と話すとき、こうした力の変化を感じることがあります。

引用元:ぱくたそ
科学的な診断
診断には、ドライブシミュレーターを用いた実技評価や、MRIによる脳の状態の確認など、科学的な手法が取り入れられています。
実際の運転に近い状況での反応を見ることで、机上のテストだけではわからない“運転脳”の状態を把握することができます。
また、医師の診断だけでなく、作業療法士による運転姿勢や操作のチェックも行われるため、より実践的な評価が可能です。
必要に応じたリハビリや運転指導も
評価の結果、運転に課題が見つかった場合でも、すぐに「免許返納」とはなりません。
必要に応じて、運転に必要な機能を鍛えるリハビリや、安全運転のための指導が行われます。
たとえば、注意力の持続が課題であれば、集中力を高める訓練が必要です。
身体の動きに不安がある場合は、反応速度を改善する運動療法が必要です。
こうした支援を通じて、「もう少し運転を続けたい」という気持ちに寄り添う体制が整えられています。
「鍛える」という選択肢があることの意味
これまで、運転に関する評価といえば、自動車学校での適性検査や、免許更新時の講習が中心でした。
そこでは「できるか・できないか」を判断する場面が多く、もし不安がある場合は「返納を検討してください」という流れになりがちでした。
でも、自動車運転外来では違います。
評価の結果、課題が見つかったとしても、それを「鍛える」「改善する」という選択肢が用意されているのです。
これは、介護職として現場にいる私にとっても、非常に希望を感じる取り組みでした。
こうしたリハビリを通じて、「もう少し運転を続けたい」という気持ちに寄り添えるのです。
高齢者の運転を「危ないからやめさせる」のではなく、「安全に続けるために支える」。
この考え方は、介護の現場でもっと広がってほしいと心から思います。
運転は、生活の足であり、誇りでもあるからこそ、できる力を信じて支える仕組みがあることを、もっと多くの人に知ってほしいのです。
「運転脳」を鍛えるという考え方
自動車運転外来の背景には、「運転脳(うんてんのう)」という考え方があります。
これは、運転に必要な脳の働きをまとめた言葉で、「記憶する力」「判断する力」「注意を向け続ける力」などが含まれています。
年齢を重ねると、こうした力が少しずつ弱くなっていくことがあります。
でも、「年齢だけで運転をあきらめる必要はない」といった考え方です。
脳の働きは、トレーニングやリハビリで鍛えることができる。
だからこそ、75歳を過ぎても安全に運転できる人はたくさんいるというのです。
この考え方は、介護の現場にいる私にとっても、とても心強く感じました。
運転をやめることが、生活の自由や自信を失うことにつながる方もいます。
だからこそ、「もう無理」と決めつけるのではなく、「まだできるかもしれない」「少し工夫すれば続けられるかもしれない」と考えることが、本人の気持ちを大切にする支援につながると思うのです。
自動車運転外来では、実際に運転しているようなシミュレーターを使ったり、脳の状態を調べる検査をしたりして、今の力をていねいに見てくれます。
そして、必要があれば、注意力や反応の速さを高めるためのリハビリも行われます。
これは、運転を「卒業」する前に、「もう少し続けられるかもしれない」と考えるための支え。
高齢者の“できる力”を信じて、そっと背中を押してくれる、そんな外来だと感じています。
介護福祉士としての関わり方
介護の現場では、「まだ運転を続けたい」という利用者さんの声に、たびたび出会います。
通院や買い物のため、あるいは家族を送迎するために、車が必要だという方も少なくありません。
その気持ちはとてもよくわかりますし、長年ハンドルを握ってきた方にとって、運転は“自分らしさ”の一部でもあるのだと思います。
一方で、ご家族は「もう危ないのでは」「事故を起こしたらどうしよう」と不安を抱えていることも多く、気持ちがすれ違ってしまうこともあります。
そんなとき、私たち介護職が“橋渡し役”になることができるのではないかと感じています。
「自動車運転外来という選択肢がありますよ」とお伝えすることで、本人の気持ちを尊重しながら、安全面への配慮もできる。

引用元:ぱくたそ
医師や専門職による第三者の評価があることで、ご家族も納得しやすくなり、本人も「まだできることがある」と前向きな気持ちになれることがあります。
運転をやめるかどうかを、家族だけで抱え込まずに、専門家と一緒に考える。そんな支援のかたちが、これからもっと広がっていってほしいと願っています。
まとめ
高齢になっても、運転を続けたいという気持ちは、生活の自由や自立につながる大切な願いです。
自動車運転外来は、その思いに寄り添いながら、安全に運転を続けるための力を見極め、必要な支援をしてくれる場所です。
現在、全国では3か所の医療機関でこの外来が開設されており、2025年春には新たに名古屋でも始まる予定です。
こうした取り組みが広がることで、ご本人もご家族も前向きに話し合えるきっかけになります。
介護の現場でも、「やめさせる」だけでなく、「支える」選択肢があることを知ることで、安心につながる場面が増えていくはずです。
高齢者の“できる力”を信じて、安心して暮らせる社会をつくるために、こうした支援がもっと広がってほしいと感じています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。yuzuhana
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